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寄稿/アトピーが治るということ(安保 徹)

病(やまい)は、体の一部をみても治らない。病の起きている体の一部だけをみて対症療法に終始している間、病は続く。病を治すためには体全体を束ねる仕組を理解し、生活スタイルを見直さねばならない。自分自身に備わっている修復機構が作動し、病は治っていく。

1.人の体の成り立ち

自律神経から始まる

38億年前生物は、無酸素で生きていた。無酸素で解糖系をつかってエネルギーをえていた。30億年前に光合成の老廃物として酸素が産生され始めた。20億年前に酸素は大気中に3%となり、現在は21%を酸素が占める。私たちの体は、有酸素と無酸素から50%ずつエネルギーを産生し、体は部位によってそれぞれのエネルギーを使い分ける。有酸素エネルギーは、持続力と分裂抑制に使われる。骨格筋、赤筋、心筋、脳神経など暖かい環境(37度)を好み、これらの臓器は3歳以後はほとんど分裂しない。無酸素エネルギー(解糖系)は、皮膚、腸上皮、骨髄、精子など盛んに分裂する臓器で使われ、低温を好む(30度)。低温下で皮膚はよく分裂する。白筋が瞬発力を発揮する時、体は無酸素エネルギー(解糖系)を使う。

子どもは解糖系が優位で糖を使う。甘い物を好み、元気よく遊ぶが乳酸がたまりすぐに疲れて寝る。解糖系は瞬発力なので、元気だが長続きしない。子ども時代に長時間の運動をさせることは解糖系に負担をかけ危険(若年性リウマチの発症など)。一方成人になり解糖系が収縮すると、有酸素運動(骨格筋、赤筋、心筋)、(マラソンなど)持続力運動の記録がのびる。「深い呼吸と体の温かさ」は長寿をもたらす。

最初に自律神経(交感神経と副交感神経)

生物が進化して多細胞化したときに、最初に自律神経(交感神経と副交感神経)が全身を束ねた。昼は交感神経が優位となり血圧をあげ、血糖をあげ筋肉に酸素と栄養を与え、エサ取りなどの活動時間を行う。夜は副交感神経が優位となり、脈をおとし血糖をさげ休息する。副交感神経はおだやかさを作る神経で、休息・睡眠・消化管活動に携わる。自律神経がリズムよく働くと、人は昼間よく働き健康も維持される。

次に内分泌系が発達する

神経と内分泌細胞は源を同じくする。自律神経の働きを補助するため内分泌系が発達した。ステロイドホルモンは重要な内分泌ホルモンである。

最後に白血球(顆粒球とリンパ球)が整った

多細胞化した生物は活動量が増えたため、異物との接触が増え、外敵から身を守るため、細菌を処理する能力をもたせた白血球を血液の流れに乗せ全身に分布させた。顆粒球(交感神経支配)は細菌を処理し、リンパ球(副交感神経支配)は細菌よりも小さなウイルスや異種たんぱくを処理する。体全体を循環し異物がどこから侵入しても処理対応できる。自律神経(交感神経と副交感神経)・内分泌系・白血球(顆粒球とリンパ球)この3つによって、生命は束ねられている。

2.現代の子どもたち

戦後70年、日本の生活スタイルは大きくかわった。1つは「子どもたちが外で遊ぶ時間が減り、運動不足により、骨格筋は弱く、疲れやすい」。

2つ目は「満腹に満たされて、消化管はリラックス状態が続く」。満ち足りた生活は子どもたちを副交感神経過剰状態に育てる。副交感神経優位な状態は、リンパ球を刺激し、リンパ球過剰による疾患に罹患する。リンパ球は花粉のように毒性の低いもの対しても過敏に反応し(ハウスダスト、ダニ、花粉、食事のたんぱく、化学物質など)過敏症をまねく。

60年前、日本の子どもはみんな冬にあおばなをたらしていた。空腹で毎日外で遊んでいたので、交感神経優位となり、顆粒球は副鼻腔の常在菌に反応し、膿(あおばな)を作っていた。現代の日本にあおばなの子どもはいない。時代とともに、病気が変わっていく。昔の交感神経優位な生活(寒く肉体労働が主)の時代には盲腸(虫垂炎)に罹患する人も多く見られたが、近年はあまり発症しない。

3.ステロイド

副腎皮質から産生される内分泌ホルモン。ステロイドは命の危険を察知して瞬発力で命の危機を乗り越えるためのホルモンで、体を低体温、低酸素、高血糖状態にセットする。ステロイドは自律神経系や他の内分泌系の働きを止め、命の危機を乗り越える。長期間ステロイド分泌状態が続くと、体は終には疲弊し意欲が減退していく。

子どもに合成ステロイドを使ってはいけない。合成ステロイドはコレステロール骨格を有し、体・皮膚から排泄されにくい。アトピーの人がステロイドをやめると、抑えていた炎症がぶり返す。炎症は体が抗原を排出するための反応だから、初めからステロイドは使用しないこと。

リウマチにステロイドを使うと炎症を一時抑えるが、炎症は組織修復の治癒反応であるから、炎症を抑えると体は治癒に向かわず、やがて関節はぼろぼろになっていく。

4.体は病に立ち向かう力を持っている

体の組織破壊がおきたら、プロスタグランジンなどにより修復がはじまる。修復過程は、血管拡張・発熱・痛み・代謝更新の経過をとる。やけどをすれば、痛く腫れ、しもやけも赤く腫れる(治癒反応)。腰痛に痛み止めをつかえば、血流が遮断され治癒せず痛みは続く。アレルギーは抗原を体の外に出そうとする治癒反応だから、花粉を出そうと涙や鼻水で洗い流したり、くしゃみで飛ばしたりする反応がおきる。治癒反応を薬で止めないことが大切である。

約40億年をかけ作られた生命体の仕組みは、まちがった炎症反応を起こさない。無酸素から有酸素の環境に適応して進化を続けてきた生命体は、病を修復するプログラムを兼ね備えている。毎日仕事で夜遅くまで働き、長時間の緊張が自律神経(交感神経緊張)バランスをくずし、低体温、高血糖、高血圧をまねく。塾通いで外遊びの時間もなく過ごすと、体力がなくなり副交感神経優位となり、アレルギーを発症する。痛みに消炎鎮痛剤を使えば、生体の治癒反応を妨害する。多忙や、薬によって症状を一時的に抑える誤った生活スタイルが、体内に備わっている修復過程を妨害する。体の仕組みを知って、生活をおくれば、祖先から受け継がれてきた修復プログラムは作動し、病は治癒へと向かっていく。

atopy freecom主催  東京講演(2014・10)より

免疫学者  安保 徹
1947年 青森県生まれ
1990年 新潟大学医学部教授
白血球の自律神経支配のメカニズムを解明。免疫学の最前線で活躍している。
主な著書に『未来免疫学』『絵でわかる免疫』『体温免疫力』他多数。

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